アクロメガリー(先端巨大症・成長ホルモン産生下垂体腺腫)

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1.アクロメガリー(先端巨大症)とは

下垂体腺腫のMRI

下垂体腺腫のMRI

成長ホルモンの過剰分泌により、身体の変化・代謝異常が見られる病気です。適切な治療が施されなければ、重度の合併症を引き起こし生命予後も悪くなってしまいます。以前は末端肥大症と呼ばれていたこともあります。アクロメガリーは希少疾病で認知度が低いうえに、専門医ではない各診療科の先生方は実際に診療する機会が非常に少ないため見逃されている患者さんも相当数存在すると言われています。
原因のほとんどは、「成長ホルモン産生下垂体腺腫」です。

2.アクロメガリーの症状

「下垂体腺腫そのものによる症状」と「成長ホルモンが過剰のためにおこる症状」があります。

下垂体腺腫については、こちらをご覧ください。

成長ホルモンが過剰のためにおこる症状

(1)顔貌の変化

特徴的な鼻翼の増大と分厚くなった口唇の写真
  • 眉間(みけん)・頬骨の突出
  • 下顎の突出 → 噛み合わせが悪くなる
  • 鼻、口唇、耳たぶ、舌:分厚く大きくなる(舌が大きくなることにより睡眠時無呼吸の原因にもなります)

(2)手・足の変化:サイズが大きくなる

  • 以前入っていた指輪、手袋が入らなくなる
  • 足のサイズが大きくなる

(3)月経の異常:月経不順、月経が止まる

(4)代謝の異常:治療してもなかなか良くならない
「糖尿病」「高血圧症」「高コレステロール血症」

(5)皮膚の変化

  • 皮膚が分厚くなる:握手をするとゴツゴツした感触がする
  • 発汗が多くなる

3.アクロメガリーの診断

厚生労働省の研究班による「先端巨大症の診断の手引き」があり、これに基づいて診断します。項目がいくつかありますが、採血検査で「成長ホルモン(GH)」と「インスリン様成長因子-1(IGF-1)」を測定することによりアクロメガリーが疑われるかどうかをスクリーニングできます(が、健康診断の採血項目に含まれていません)。日常的な採血検査では、この項目が含まれていない印象があります。簡単にまとめると「臨床症状」「成長ホルモンに関連する採血検査」「頭部MRI検査」により診断します。

厚生労働省の間脳下垂体機能障害に関する調査研究班により「先端巨大症の診断と治療の手引き」が作成されています。

Ⅰ.主症候

  1. 手足の容積の増大
  2. 先端巨大症様顔貌(眉弓部の膨隆、鼻・口唇の肥大、下顎の突出など)
  3. 巨大舌

Ⅱ.検査所見

  1. 成長ホルモン(GH)分泌の過剰
    血中GH値がブドウ糖75g経口投与で正常域まで抑制されない
  2. 血中IGF-I(ソマトメジンC)の高値
  3. MRIまたはCTで下垂体腺腫の所見を認める

Ⅲ.副症候および参考所見

  1. 発汗過多
  2. 頭痛
  3. 視野障害
  4. 女性における月経異常
  5. 睡眠時無呼吸症候群
  6. 耐糖能異常
  7. 高血圧
  8. 咬合不全
  9. 頭蓋骨および手足の単純X線の異常

診断の基準
確実例:Ⅰのいずれか、およびⅡをみたすもの

4.アクロメガリーは、なぜ治療しなければならないか?

成長ホルモンの過剰な状態が長期に持続すると、さまざまな合併症が出現します。何も治療をしないと一般健常人に比べて死亡率が2-4倍になり、寿命が平均10-15年短くなることが報告されています。しかし適切に治療を施すことによって、ほとんどの方は健康な生活を送れます。

アクロメガリーにみられる合併症

  1. 心血管障害:狭心症・心筋梗塞・心不全
  2. 脳血管障害:脳梗塞・脳出血
  3. 悪性腫瘍:とくに大腸がんの発生が多くなります
  4. 呼吸器疾患:睡眠時無呼吸症候群
  5. 月経不順・無月経・不妊症:不妊症の原因として、しばしば見逃されます

5.アクロメガリーの治療

手術治療

治療の原則は、「手術治療」です。治癒が望める唯一の方法です。
→ 手術で治癒可能な腫瘍を確実に摘出するのが、最善の方法です。(一般市中病院では、「手術でおおまかに腫瘍を摘出して、あとは薬物治療を」と考えている先生が少なからずいますが、初回の手術が最も重要です。)全身合併症のため、全身麻酔、手術が困難な場合を除いて、手術療法が第一選択の治療(まず行うべき治療)です。

当科では原則として「内視鏡下経蝶形骨洞的腫瘍摘出術」を行います。内視鏡を導入することにより、病変を詳細に観察して摘出率の向上に努めています。内視鏡下蝶形骨洞的腫瘍摘出術はこちらをご参照ください。

→ アクロメガリーの手術治療の鍵は、「被膜外摘出」です。腫瘍だけでなく腫瘍を包んでいる被膜ごと摘出すると治癒率が向上すると言われています。神経内視鏡は、術野をより鮮明に観察できるハイビジョン対応のCCDカメラを搭載しており、被膜外摘出をより可能とします。

手術治療による治癒率

アクロメガリーでは、コルチナコンセンサスという厳格な内分泌学的治癒達成基準があります。具体的には、血中成長ホルモン値がブドウ糖75g経口投与により0.4ng/mL未満にまで抑制されることが求められます。当院では、神経内視鏡手術を導入することにより治癒達成率が向上しております。
当科における治癒達成率は以下のとおりです。Knosp(ノスプ)グレードとは、トルコ鞍内に限局する小さな腫瘍がグレード1、トルコ鞍の外側にある海綿静脈洞への腫瘍伸展が強くなるほどグレードが高くなります。Knosp4を手術のみで治癒基準を達成するのは困難です。

当科におけるアクロメガリーの手術による治癒基準達成率
Knosp(ノスプ)グレード 1 2 3 4
手術による治癒基準達成率(%) 100 100 82 0

アクロメガリーに対する集学的な治療

アクロメガリーの治療で重要なのは、前述のとおり手術治療ですが、海綿静脈洞に大きく浸潤している腫瘍は、残念ながら完全摘出は困難です。厳格な内分泌学的治癒基準では、手術による全摘出率は50-70%程度と報告されています。このような場合は、手術治療に加えて「薬物治療」「定位的放射線治療」を組み合わせる必要があります。そのため、当院では内分泌内科専門医と一緒に治療を行っております。

アクロメガリーに対する薬物治療

(1)ソマトスタチンアナログ

酢酸オクトレオチド(サンドスタチン®)ランレオチド酢酸塩(ソマチュリン®)
→ 注射製剤です。成長ホルモンの分泌を抑制します。腫瘍が縮小する例もあります。

(2)ドパミン作動薬

ブロモクリプチン(パーロデル®)カベルゴリン(カバサール®)
→ 内服薬です。ソマトスタチンアナログと併用することでよりよい効果が得られるとの報告があります。

(3)成長ホルモン受容体拮抗薬(成長ホルモンアンタゴニスト)

ペグビソマント(ソマバート®)
→ 注射製剤です。ソマトスタチンアナログとドパミン作動薬と組み合わせて使用します。

アクロメガリーに対する定位的放射線治療

手術治療・薬物治療により治療効果が十分得られない場合は、ガンマナイフやサイバーナイフ治療を補助的に行います。

アクロメガリーの診断・治療は複雑であり、内分泌専門医(下垂体専門の脳外科医・内分泌内科医)による厳格な治療を必要とします。アクロメガリーが疑われる方は、是非、ご相談ください。

担当医

谷岡 大輔 准教授
[日本間脳下垂体腫瘍学会員・日本神経内視鏡学会技術認定医]

谷岡 大輔先生の紹介記事がメディカルノートに掲載されました

  • 外来は火曜日に行っております。紹介状が無くても結構です。
  • 初診の方でも昭和大学病院 医療連携室で診察予約ができます。
  • 予約が無くても結構です。
    火曜日10:00-15:00に初診受付にお越しください。
  • 毎月第1.・第3月曜日は昭和大学横浜市北部病院で診察をしております。
    こちらもあわせてご利用ください。
谷岡 大輔 准教授