顔面けいれん(片側顔面痙攣)・三叉神経痛・微小血管減圧術
仰臥位・脳ベラなしで行う微小血管減圧術
執刀医の清水は、鍵穴手術や頭蓋底腫瘍などの繊細な顕微鏡手術を得意としており、
ドクターズガイド 時事通信出版局
脳神経外科の名医リスト
脳の病気ウエブ→脳神経外科の名医
などでも紹介されています。
※ページ下部に清水先生紹介記事の一覧を紹介しております。
2010年フジテレビFNNスーパーニュース、2011年TBSひるおびの番組内で、手術をうけられ顔面けいれんから見事にカムバックされた女優さんの主治医(手術者)としても紹介され、2012年「たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学」にも出演しました。
1985年より顔面痙攣・三叉神経痛の根治術である微小血管減圧術を、患者さんの負担の少ない仰臥位(仰向けの状態)で行う手術方法をとっており、論文としても発表し独特の方法として確立しました。この方法は仰臥位(仰向けの状態)という一番自然な体位で、さらに一般的に手術中に用いられる脳べラという脳をけん引する装置も用いないというより患者にやさしい手術です。
同方法は聴神経腫瘍の手術などにも採り入れており頭蓋底腫瘍といったデリケートな顕微鏡手術にも定評があります。
顔面けいれん(片側顔面痙攣)
典型的な症状は片側の瞼のぴくつきからはじまり、頬のこわばり、口角のひきつれなどを併発するようになります。さらに進行すると瞼が閉じたままになり、顔の片側がくしゃくしゃになってしまいます。
これらの動きは自分の意志とは全く無関係におこり、ストレスや緊張などで誘発されることが多いようです。
一般の方にはこの病名は、ほとんど知られておらず、医療従事者のなかでも、まだまだ認知度が低く、病院を受診しても、診断すらつけてもらえないでお困りの方も少なくないようです。
原因はほとんどの場合、頭蓋内で顔面神経(顔の筋肉を動かす神経)が脳から顔面筋に至る経路の中で脳からの出口、いわゆるroot exit zone(REZ)付近で血管に圧迫刺激され、常に興奮状態になっていることです。
治療としては、ボトックスという毒素を直接顔に注射し、筋肉を麻痺させる方法もありますが、薬の効果が切れれば症状は再現します。内服薬も現時点では有効なものはありません。根本的に治療するには、手術で原因となっている圧迫血管のループの形を変えて移動させ、REZ付近での圧迫を解除する必要があります。
この手術は微小血管減圧術(通称Jannettaの手術)とよばれており、耳の後ろの頭蓋骨にコインの大きさ程度の穴をあけ、顕微鏡を使って行う手術です。
いわゆるKey hole surgery(鍵穴手術)といわれ、小さな開頭(鍵穴)から多数の神経や血管が集まる脳幹部を扱うデリケートな手術で、高度な技術と熟練を必要とします。
三叉神経痛
顔や歯茎の激しい痛みです。喋ったり、ものを噛むと下あごから頬に激痛が走る。あるいは冷たい風にあたったり顔をさわると、おでこ、目の周り、口のまわりなどに限局して激しい痛みが走るなどの症状です。虫歯の痛みと区別が難しいので歯科を受診されて、三叉神経痛とわかることも多いようです。当大学では歯学部とも連携し治療にあたっております。
さまざまな原因がありますが、顔面けいれん同様に三叉神経(顔の感覚を伝える神経)が、やはり脳からの出口で血管に圧迫されて起こることがあります。
三叉神経痛にはテグレトールという特効薬がありますが、強い薬ですので、ふらつき、眠気などの副作用が強く、また長期間使用していると効き目が弱くなり内服量がどんどん増えてしまいます。根治にはやはり微小血管減圧術(jannettaの手術)が必要となります。また注意すべきことに三叉神経痛の患者さんの10人に1人に脳腫瘍が見つかるという報告もあります。ですから三叉神経痛の患者さんは一度は頭部MRIなどの検査をうけることをお勧めします。
同類の疾患として舌咽神経痛があります。症状は、ものを呑み込む時の喉の奥や耳の奥の激しい痛みです。この場合も舌咽神経が血管により圧迫されていることが原因で治療も三叉神経痛に準じて行います。
画像診断
MRIでの画像診断が必要です。非常に薄いスライスでのconstructive interference in steady-state(CISS)という撮影法が有用です。さらに当院では3D画像処理を用いた特殊な描出法での術前診断を追加しております。これにより、より正確な診断が可能となり、手術の安全性、成功率の向上に役立っています。
当院での手術治療
–仰臥位・脳ベラなしの手術(supine no retractor method)-
通常の微小血管減圧術では、顔面けいれんや三叉神経痛の手術は術者が手術をしやすいように、仰向けで全身麻酔がかかったあと、患者さまを横向き(側臥位)や、うつ伏せ(腹臥位)に寝かせ、手術を行います。この場合、神経の出口(REZ)を見るには小脳が邪魔になるので脳ベラという器具で小脳を押しのけた状態で手術を行います。-⑤⑥
側臥位や腹臥位に移動する作業は煩雑でリスクもあります。また患者さんの体の特定の一部に過度の圧力がかかりやすく管理も大変です。また手術中にREZをよく見るために脳ベラを引きすぎて聴神経や小脳の障害が合併症として発生しやすくなります。
しかし当院では、患者さまを普段寝ている時と同じ仰向けに寝かせて手術をします。術者に技術が必要ですが、小脳が自重で下方に移動するのをうまく利用することによって小脳を押し分けず(脳ベラを使わず)に手術ができます。こうすることによって聴力障害の合併症がおこりにくく、小脳のダメージが少ないぶん術後のめまい、嘔気・嘔吐などの症状が出にくくなります。手術翌日から、笑顔で食事がきるなど、患者さまにとっては術後の回復が早く楽になります。
当院では顔面けいれん・三叉神経痛の手術治療は全例、清水教授が責任をもって担当しております。安心しておまかせください。
手術成績
不治・再発症例に対する再手術
顔面神経にダメージの残る手術では、術後直後から顔面神経に軽度の麻痺を生じ、術直後から痙攣が消失したように見えます。これとは逆に顔面神経にダメージを与えいない手術では直後には痙攣が残存しますが、徐々に神経の異常興奮が収まり、痙攣は減少し最後には消失します。我々の施設では術後1~3月後に痙攣が消失するケースが多く、ダメージの少ない手術ができていると考えられます。最長では2年後に痙攣が消失した症例もあります。したがって、最善の手術のあと、不治・再発例と判断を下すまで最低1年は経過をみていただくことが多いです。
不治・再発と判断された場合は積極的に再手術をお勧めしています。
初回手術時には原因ではなかった血管があらたに神経を圧迫する場合や、原因血管が1つではなかった場合などが不治・再発の原因と考えられます。ご存知のとおり、顔面痙攣は顔面神経のREZ付近を血管が圧迫することで生じます。術前の綿密な画像診断によりREZを圧迫している責任血管を同定し、手術でその血管を移動させます。しかし、REZ以外での圧迫が原因となる非典型例も少なからず存在します。手術中の所見で術前診断以外の血管による圧迫の可能性が否定できない場合でも、初回手術では、REZでの圧迫が解除され治癒が十分期待できる場合、術後の合併症に直結する不要な血管の移動はなるべく避けるようにしています。それでも初回手術での治癒率は93%と高い値を得られていますが、残念ながら治癒を得られなかった患者さんは7%いらっしゃいます。これらの患者さんに対しては少しでも圧迫が疑われる血管を可能な限り移動させるべく再手術を行います。文献上も近年、再手術を積極的におすすめする方向にあり、熟練したエキスパートによる再手術では上記の非典型難治例でも治癒が期待できることが報告されています。当施設では再手術による治癒率は79%で、いまのところ合併症はありません。経験上、他施設で行われた不適切な手術で治癒が得られなかったケースもみられるのは事実です。
初回手術で不治・再発という不幸な経過をとられた方もあきらめずに是非一度ご相談ください。
患者さま満足度アンケート
さらに、顔面けいれんや三叉神経痛といった、いわゆる機能的疾患の手術治療においては、手術成績のみでは、その治療効果の評価がむずかしといった側面があります。
画像や電気生理的検査での評価、術後合併症の有無など客観的な評価方法も重要ですが、顔面けいれんの他人にはわからないような頬のこわばりや、三叉神経痛での顔面の違和感や鈍い痛みの有無などは客観的な評価が難しく、患者さまにしかわからないといった性質のものです。
つまり患者さま御自身が手術のあと、どれだけ治ったという実感(満足度)を得られるかが非常に重要になってきます。
そこで筆者らは前施設で1988~2010年までに手術をした193例の顔面けいれん・三叉神経痛の患者さまのうち転居などで送達できなかった54名を除く139名の方に、お手紙でアンケートをとらせていただき、我々の手術治療に対する患者さまの満足度を調査いたしました。
アンケートの結果は有効回答105(76%)で、
顔面けいれんの手術で70%の方が100%満足。87%の方が80%以上の満足度を現時点でも感じているとお返事してくださいました。三叉神経痛の手術でも同様に、現時点でも63%の方が100%満足され、82%の方が80%以上の満足感を得ていただけているという結果をいただいております。手術に対する満足度100%という値はなかなか得難い数値であり著者らの手術が良質のものであると自負しております。
このアンケートは脳神経減圧研究会の提唱する評価方法に基づくもので、われわれの追跡期間は手術後1.2~23.5年(平均13.5年)と公表されている代表的な報告と比較しても最長の追跡期間でありながら、これらと同等以上の結果を示しております。
参考文献
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- Bigder MG et al. J Neurosrug(2016) 124: 90-95
担当医
清水 克悦教授
顔面痙攣・三叉神経痛や、頭蓋底腫瘍(聴神経腫瘍・下垂体腫瘍・髄膜腫など)の顕微鏡手術を得意としております。
・外来日は木曜日です。お気軽にご相談ください。
・手術、学会などで不在となることもあります。お電話でご確認の上お越しくださるとありがたいです。
医療連携室:(03)3784-8400
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